九月場所
九月五日
ドス恋! くぼうちでごわす! こないだ親方と斎藤さんが非モテサイト対決をしてからメチャメチャ時間が経っているでごわすよ! 殆どの人は忘れているのでごわす! やっても意味ないのでごわす! つうか、これもともとおいどんの勝負だったはずなのでごわすが…。
「おやおやくぼうち様、今日もお元気そうでなによりです」
「さささ斎藤さんいつの間にそんなところに! 聞いていたのでごわすか?!」
「は? なにを仰ってるか、いまいちよくわからないのですが。私は今度の勝負で頭が一杯なのです。申し訳ございません」
「それは助かっ…いや! 全然構わないでごわすよ! おいどんは斎藤さんの為ならなんでも協力させてもらうでごわす! どどどどすこーい!!!」
「ははは。くぼうち様、ありがとうございます」
なんとか斎藤さんをごまかすことができたのでごわす。普段は物静かな斎藤さんでごわすが、一度キレるとなにをしでかすのかさっぱり判らないのでごわす。たぶん斎藤さんのような人が、最近の事件を引き起こしているような気がして成らないのでごわす。あ、ちなみに斎藤さんはとっくに10代は過ぎているでごわすが、そこがさらに空恐ろしさを感じさせるのでごわす。
「ところで斎藤さんは、次に勝負するサイトは決まったのでごわすか?」
「いや」
斎藤さんは暫く黙ったあと、ため息混じりに話したのでごわす。
「それが全く見つからないのです。まさかあんなカードを出されるとは思ってもいませんでした。かまくらと言えば2ちゃんねるの漫画板に出入りしていたほどのヒッキーです。しかもロリ、いや、あえて言うならペド。更に二次コン、細田でした、という複合要因が重なり合って非モテのオーラは最大限に高まっております。ここを越えるサイトというのも、なかなか……」
斎藤さんは右手の親指と人差し指を両こめかみのあたりにあてて、顔を隠すようにすると、これは最悪の事態だと言わんばかりに首を振っていたのでごわした。
「し、しかし斎藤さんは次回は必ず越えるサイトを見つけ出すと言っていたでごわす!」
「あの時はすぐにでも見つかると思っていました。しかしよくよく考えてみると何とも手ごわい相手と勝負してしまったと後悔しております」
「さ、さすがは親方だったのでごわすな…」
おいどんは、改めて親方の恐ろしさというものを知ったのでごわす。親方は最後に会った時にはとてもしょんぼりとした様子で、もう以前の親方には戻れないのではないかと思っていたのでごわすが、ちっともそんなことはなかったのでごわす。むしろ強化されてきたかのようにも思えるのでごわす。これはいくら斎藤さんといえども、勝ち目はないのかと思ったのでごわす。しかし約束の期限は今日なのでごわす。もう時間がないのでごわす。
「…仕方ない、アレを使うか」
斎藤さんは、ポツリと独り言のように言ったのでごわす。
「くぼうち様、参りましょう。これからくぼうち様がご覧になるすべては、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図です。しかしこれを通らぬ限りはテキスト系サイトが何たるかを理解することができません。苦しいですがこれも修行だと心得てください」
「い、いや、おいどんはもうそういうのはちょっと…なんというか、そこまでしてテキスト系を知っても仕方ないというか、その…」
「さ、急ぎましょうくぼうち様、こちらです」
斎藤さんはおいどんの言っていることは完全に無視して、腕をぐいと掴むと、ずんずんと前回対決した場所へ連れて行ったのでごわした。
「やっと来たか五郎! 自分から頼み込んでおいて遅れるとは10年早いわ! 何様のつもりだ!」
親方はすでに斎藤さんが来るのをいまや遅しと待っていたのでごわす。しかしその表情は、余裕綽々と言った感じだったのでごわす。この余裕はなんなのでごわすか…。
「お待たせいたしました。では早速ですが、競技を再開させましょうか」
斎藤さんはそう言うと、ゆっくりと腰を下ろしたのでごわす。
「お願いします」
巨大モニターには今、斎藤さんがURLを打ち込んでいるところが見えたのでごわす。その一字一句から、なにやら恐ろしいオーラが漂ってくるのがおいどんにすらわかったのでごわす。
「ではエンターキーを押します。よろしいですね」
斎藤さんは確認をとるように言うと、おいどんのところにそっと近づき、囁くようにいったのでごわす。
「いいですかクボ様。このサイトは決して栗取田さんに見せてはなりません。彼女の目に手で覆い隠すようにしてください。それから、窓の近くにも居てはいけません」
「そ、それはなぜでごわすか!」
「じきにわかります。残念ながら今説明している時間はないのです。お願いします」
「さっさと始めろ! 五郎!」
親方はシビレを切らしたのか、怒鳴るように言ったのでごわす。斎藤さんはおいどんのもとからそそくさと離れると、キーボードに手を触れたのでごわす。
「これです」
ブラウザがサイトにアクセスし始めたのでごわす。ホストに接続しています。dti.ne.jp...と、このアクセス時間がイヤに長かったように思えたのでごわす。この時はみな、元気だったのでごわす。この時までは…。
藍色の画面が見えてきたのでごわす。
「おい、アレはなんだ」
「ページのタイトルが判らないぞ? どうなってるんだ?」
ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
するとどこからと無く地鳴りのような音が聞こえてきたのでごわす。
ビシッ! ビシッ!
窓にヒビが入っていくのが判ったのでごわす。しかもそれは、窓と言う窓全てに渡ったのでごわす。そして、一人の審査員が絶叫するように言ったのでごわす。
「馬鹿野郎! これはマサムネ様だ! 危険だ! 伏せろ!」
「マサムネ様!」
「馬鹿な! まだ存在していたというのか!」
「おい! モニターの電源を落とせ! ブレーカーからでも構わん!」
「ダメだ! もうすでに侵食されている!」
「息はあるか! しっかりしろ!」
それ以上のことは、おいどんからはもう、とても口にできないのでごわす。栗取田さんはおいどんがギリギリのところで助けることができたのでごわす。しかしながら、若干の被害を受け、今も通院しながら働いているのでごわす。非モテサイトを競い合うというこの企画は、次回開催は無期延期ということになってしまったのでごわす。親方と斎藤さんの決着は、テキスト系サイトの歴史から闇に葬られ、うやむやのうちに時が流れていったのでごわす。
幕内